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【ギャラリー】 塩を焼く民

写真1:塩を売る人と買う人。

写真1:塩を売る人と買う人。

写真2:小さなバケツで海水を運ぶ。

写真2:小さなバケツで海水を運ぶ。

写真3:シートを利用した塩田。

写真3:シートを利用した塩田。


塩を焼く民 (2008年2月撮影、2010年11月掲載)

西アフリカ・ギニアのマルシェ(市場)にモノはあまりないが、人はあふれかえっている。売りたい人、買いたい人、ただそこに居る人、通り過ぎるだけの人。その合間をすり抜けるようにマルシェの外れまで進むと、塩を買い求める近所の女性たちが群がっている一角にたどりついた。このマルシェで売買されている塩は、30キロほど離れた場所から運ばれてきたものだという。そこで得た情報を頼りに、塩をつくる様子を見に出かけた。

ギニア沿岸部での製塩業は、農業や漁業を組み合わせた複合的な生業形態に含まれるものであり、乾季(11月から4月)のあいだだけ営まれる。その方法の一つとして、マングローブを燃料にし、海水を煮詰めるという方法がある。まず、海水を土と藁でろ過し、不純物を取り除く。次に、釜で煮詰め、塩分濃度の高い「かん水」を作る。この作業を何度か繰り返しながら、かん水を煮詰めてゆく。火を絶やさないように、また沸騰させないように加減しながら、ひたすら薪をくべつづける。ここまでで、3日かかる。塩の結晶ができたら、それを天日干しする。つきっきりの作業となるため、「塩の番人」たちは、簡単な調理道具やゴザなど身の回りのものを持ち込み、仮住まいとしての質素な小屋を立てる。そのゴザにゴロンと寝転び、番をするのだという。相当の労力がかかる作業にもかかわらず、かれらの雰囲気がどこかのんびりしていて、「おまえも、ここで昼寝して待っていたらいい」などと言うものだから、大変な作業であることをうっかり忘れてしまう。

マングローブ林は世界的に減少傾向にある。ギニアで実践されてきた煮沸式製塩方法は、この貴重な資源の浪費だと批判され、改善すべきものとして、開発援助の対象となっている。2008年の訪問時には、すでに、ビニールシートを用いた塩田式がフランスのNGOによって試験的に導入されていた。塩田式ならば、薪を用意したり、火加減に気を配りつづける必要はない。確かにこのきつい陽射しと、土に浸み込む海水量をほぼゼロにすることができるシートを利用すれば、生産量はぐっとあがる。

しかし、「この方法は楽で、塩はすぐにできあがる。だけど、シートが破れたら買うことも、直すこともできない」と塩の番人は話した。シートはそうそう破れるようなものではないにもかかわらず、愚痴をこぼす。これという理由は示さないけれど、どこか気に入らない様子だった。煮沸式で製塩する「塩の番人」は、「ドゥンドゥルンチ セボン」とよく言っていた。ぼちぼち、ゆっくりゆっくりがよい、という意味である。これは、彼に限らず、ギニアで出会ったスス語を話す人びとがよく口にするフレーズである。煮沸式は、まさに、ドゥンドゥルンチな方法であり、生き方のリズムと生業のリズムがぴったり合っているとも言える。

とはいえ、ローカルな生活様式や価値観は、国内外からのさまざまな影響を受けながら、確実に変化してきている。2010年秋には、大統領選の結果が出た。これが、さらなる情勢不安を招くのか、それとも平穏無事な生活をたぐりよせるのか。マルシェを往来する人びと、シート式塩田、そして、塩を焼く民のその後にも、大統領選の結果は何らのかたちであらわれるだろう。次、かれらのもとを訪れたときには、もう一度、「ドゥンドゥルンチ セボン カ?」と聞いてみよう。

撮影・文:中川千草(大学院GP プログラムコーディネーター)

■ストリート・ギャラリー(フィールドから見えるもの)

posted on 2010-11-19