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【ギャラリー】 <看板>にみる空間のポリティクス

投稿者:稲津秀樹

写真1.浜松駅近くのポルトガル語看板

写真1.浜松駅近くのポルトガル語看板


写真2.団地生活におけるゴミ出しの注意を告げる看板

写真2.団地生活におけるゴミ出しの注意を告げる看板


写真3.住宅地域にあるスーパーマーケット

写真3.住宅地域にあるスーパーマーケット


写真4.マーケットの駐車場での注意書き

写真4.マーケットの駐車場での注意書き


<看板>にみる空間のポリティクス(2008年8月24日撮影、2009年4月掲載)

移民について研究していると、しばしば、ここはいったいどこなのだろう?という風景に出くわすことがある。それは、中華街のような典型的な観光スポットで、というよりかは、むしろ生活に近い「におい」の感じられる地方の住宅地等で遭遇したときほど、面白いものがある。


4枚の写真はいずれも、昨年、静岡県浜松市を訪れた時のものである。浜松は、日系ブラジル人や日系ペルー人などのニューカマーが多く住む都市として知られる。写真1は、JR浜松駅から出てすぐの建物を写したものである。コンビニが入ったビルには、料理屋の看板のほかに、ポルトガル語で、自動車教習所の宣伝が行われている。


同市内を歩けば、この他にも、彼ら自身による、エスニックビジネスや学校の看板を多く目にすることができる。「本来」ならば、こうした公共の風景は、「日本」の一風景であるはずだが、むしろ、南米出身の日系人たちによる空間の私有化が行われていくことによって、その根拠が揺らいでいく感覚を覚える。


駅前を少し離れ郊外へと場所を移せば、そこは団地が多く立ち並ぶ住宅地域となる。写真2は、ある団地のごみ捨て場で、注意を記した看板を写したものである。日本人の関係者から、同団地に住むベトナム語とポルトガル語を母語とする者へと向けて、ゴミ出しに関する注意を行っているとみていいだろう。


こうした看板は、いかにも、〈日本のルールを守らない外国人〉、というイメージを起させるが、事はそう単純ではない。たとえば、ゴミ出しの注意をみた地点から少し歩くと、写真3のブラジル関係の食材を扱ったスーパーマーケットがある。これはまさに写真1でみたようなエスニックビジネスの現場であるが、そこの駐車場には、写真4のようにブラジル出身者に対する注意書きがかけられてあった。我々と同じように、彼らも一枚岩で捉えられる人々ではないのだ。


このように、何気なく見過ごしがちな看板であるが、それらには多様なアクターによる空間の生きられ方が表出している。言い換えればそれは、その土地に生きる様々な人々を巻き込んだ形で展開している、生活空間を管理しようとする権力をめぐる政治的なかけひきなのである。

撮影・文:稲津秀樹(博士課程後期課程)

■ストリート・ギャラリー(フィールドから見えるもの)

posted on 2009-04-17