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【ギャラリー】二つのフィールド―大学院生と契約社員

写真:オランダ-キューケンホフ庭園内

写真:オランダ-キューケンホフ庭園内


二つのフィールド―大学院生と契約社員(2010年8月撮影、2011年3月掲載)

Asymmetry。

最近、本の中で出会ったお気に入りの言葉だ。知っているようで知らなかったこの言葉をみたときにハっとさせられる思いがした。

一般的に、Symmetry(対称性)はよく見かける。それは中央の垂直軸に重点が置かれており、対象軸の両側に同等の要素が配置されている。インドのタージマハルや、もっと身近なところでは万華鏡を覗いたときに見える結晶がそれにあたる。それらはバランスの取れた調和している状況を想起させる。

私の日常生活はどうだろうか。職場、学校や家族の中のあらゆるところでバランスを取ることを求められてはいないだろうか。

「WorkとLifeのバランスをいかに保つか。」

この問いは、2008年に前職を離れてから私の頭でずっとモヤモヤしている問題だ。私は現在、大学院生でありながら契約社員でもある。いわば自分のフィールドは二つある。両方を行ったり来たりする日常は、私にとっては格闘の毎日だ。

大学院では、近年の雇用環境の変化を背景にした職業移動に関する問題を考察するために計量的なアプローチを学んでいる。統計学の基礎的な知識を踏まえて、数的データを分析する力を身につけることが修士課程での私の課題だ。

一方、今の私の業務は、独立や開業をする人々へのインタビューである。この1年半でおよそ80名以上の人と出会い、言葉を交わしながら、実際の転職(職業移動)の現場に関わりをもっている。インタビューというと聞こえは良いかもしれないが、実際は対象者との距離感が掴めず悪戦苦闘している。というのも、一回限りの訪問ではなく、継続的に実施しているため、良くも悪くも、相手との関係は近くなることもあれば、遠ざかってしまうこともある。また、被雇用を離れた人の悩みや生計を立てるために売上を確保するプレッシャーは想像以上に厳しいものであり、容易には計り知れない。廃業せざるを得ない人々とも関わっている。それは決して数的データでは見えてこない社会の生の姿である。大規模調査では「欠損値」として処理されてしまう出来事かもしれない。しかし、それは今、日本で起きている職業移動の一つの現実であり、結果である。WorkとLifeのバランスの取れたシンメトリーのような状況では全くない。

私は二つのフィールドに対して、知らず知らずのうちに量的/質的なアプローチを行っている。ただ、両フィールドを繋ぐ道は今のところハッキリとは見えていない。しかし、大学院で計量的なことがほんの少し分かり始めたことで、逆に、計量では測れないことが浮き彫りになりそうな気がしてきている。「量的/質的の両方を横断することで見えてくる世界」、そこに社会学をするオモシロさを感じている。率直に言って、私の中で、「計量的なアプローチ」を取ることのハードルは依然として高い。しかし、質的/量的なアプローチの「間」にこそ社会の姿があると思う。それはおそらくシンメトリーではない世界だろう。色や形は不揃いではあるが、バランスが取れて成り立っているチューリップ畑の庭園の写真は、フィールドの縮図のように感じる。どのようなアングルからそれらを眺め、解きほぐすのか。そして何を明らかにしたいのか。フィールドから見えてくる微かなシグナルを頼りに先に進みたいと思う。

撮影・文:仲修平(関西学院大学大学院社会学研究科 博士課程前期課程)

■ストリート・ギャラリー(フィールドから見えるもの)

posted on 2011-03-17