【レポート】共同研究「東アジアのストリートの現在」第8回研究会「アニメ聖地となる<ストリート>」

● 報告者:川端浩平(関西学院大学大学院社会学研究科大学院GP特任助教)


● 第8回研究会『アニメ聖地となる<ストリート>』

● 日時:2010年1月24日(土)13:00-17:00

● 発表者:

・松本真治(鷲宮町商工会経営指導員):
   『萌えアニメによる新しい町おこし』

・岡本健(北海道大学国際広報メディア・観光学院観光創造専攻 博士課程):
  『情報化時代の旅行コミュニケーション~埼玉県鷲宮町の土師祭「らき☆すた」神輿の事例から~』

・谷村要(関西学院大学大学院社会学研究科大学院GP RA):
   『「趣味」を包摂する場としての「アニメ聖地」』

● コメンテーター:森川 嘉一郎(明治大学国際日本学部 准教授)


●出席者による研究会レポート

本研究会でもっとも印象に残り、かつ自分の問題意識と接続したのは、「アニメ聖地」の舞台となっている埼玉県鷲宮町の商工会長の認識と発表者でもあった商工会でまちづくりを進めている松本真治氏の言葉であった。まず、商工会長の認識とは、アニメ聖地の試みを長期的に継続するとは考えられないというものだ。もう一つは、松本氏の発表で述べられた、まちづくりのとりくみをはじめたのは「ノリ」であったという言葉だった。まちづくりの中心的役割を果たしている両者の認識と言葉は鷲宮における試みの将来を暗示しているのだろうか。

まず、商工会会長の認識が示しているように思われるのは、アニメのまちづくりは現在の地点での起爆剤として、地域経済や住民たちを元気にするだろうということ、しかし同時にそれが永続的なものではないことはあらかじめ分かっているのだ、ということである。確かに、これがきっかけとなって、何かしらの新しい展開はおおいに期待できるところだろう。何よりも、ロマンチックに熱く何かにとりくむほうが、「どうせ何も変わらない」とシニカルになるよりは遥かに積極的であるように感じられるに違いない。

そのような熱さを帯びた松本氏の発表で印象に残ったのが、「ノリ」でまちづくりをやっているということである。そのことをプレゼンする同氏はどこかポジティヴで、また個人的に強くコミットしているのだという気概が伝わってくる。いっぽうで、そもそも彼もしくは他の商工会のメンバーたちが、まちづくりのコンテンツとなっているアニメ『らき☆すた』のファンであったわけではない。また、鷲宮が舞台になっているとはいえ、地域社会やそこで生活している人びとのローカルな歴史や文化との有機的なつながりがあるわけでもない。むしろ、たまたま『らき☆すた』の消費者たちの強い関心がその舞台となっている鷲宮に向けられ、その眼差しに乗っかっていくことに可能性を見出しているといえるだろう。

そのような眼差しとはどのようなものなのだろうか。永続的なとりくみではない、だけれども何もしないよりは遥かにポジティヴであろうという「ノリ」に対して巡礼者たちはどのような眼差しを向けているのか。たしかに、自分たちの好きな『らき☆すた』というバーチャルな世界と現実世界が結びつく楽しみと、バーチャルとリアルが繋がることによって存在論的な安心感が得られるのだろう。バーチャルの外に出て、地域住民の人びとと交流することは新鮮だし、「他者」との出会いは何かこれまでとは異なる喜びを与えてくれるだろう。

そのいっぽうで、コメンテーターの森川嘉一郎氏は、彼の撮った写真に写った鷲宮町とオタク文化との奇妙な出会いが共存していることに対するシュールさを強調していた。何気ない田舎町の地味な食堂とアニメのコラボレーション。これは異なるもの同士の出会いなのか、もしくはそこにはある種の非対称的な関係性が存在しているのだろうか。それは誰にも分からないし、今後の鷲宮でのとりくみの結果を見守っていくしかない。

「地方」や地域社会の疲弊が言われて久しい。打つ手のない自治体は日本全国無数にあるだろう。そのときに、それぞれのまちで生活する人びとにはどのような選択肢があるというのだろう。「どげんかせんといかん」とロマンチックに何かやるのか、「どうせ何も変わらないから」とシニカルになるのか。あるいは両者には通底した感覚があるのだろうか。近代へ再帰的/反省的なとりくみとしての成熟化した社会を志向するまちづくりや村おこしが、真の意味でユニークかつ個々の地域住民のローカル性を反映させるような試みへと導かれていることが期待される。そのためには、近代をさらに推し進めていく時代を生きる僕たちが生活する場所と人びとを冷静に見つめなおし、反省を十二分に活かすことが求められている。


文:川端浩平(大学院GP特任助教)


※より詳細なレポートは下記に掲載する予定です。
■第8回研究会 「アニメ聖地となる<ストリート>」(pdf ファイル)


posted on 2010-03-04