【レポート】北京798芸術区における共同調査報告論集(2009年8月実施)


2009年8月16日から26日まで、関学社会学研究科の院生・研究員と北京師範大学の院生は「北京798芸術区」おける共同調査を実施した。調査の事前には、両者のディシプリンへの理解を深めるワークショップを開き、そこでの報告と議論を経て、北京798 芸術区における視点として、広告、景観、商業という三つを用意した。これらの三つの視点から、同地区の歴史や現状を探りながら、専門分野が異なるメンバーによる共同調査や東アジアという地域的特性を意識したフィールドワークのあり方、意義、課題を模索した。

本報告書は、その調査について関学の院生と研究員がまとめたものである。

広告グループは、798芸術区で発行される雑誌編集部や798芸術区で配布されているチラシや地図、設置されている看板に対する調査から、芸術区内における社会的ネットワークおよびコミュニティ的な特徴を導き出した。

景観グループは、建築景観の構造や変容、改造と利用などに注目することで、芸術区の撤退とビジネス増加、芸術振興の「中心地」と政府の「過保護」「過干渉」などの問題点を指摘し、建築の再利用文化の試金石としての798芸術区意義を明らかにした。

商業グループは、商店が集中している第4ブロックを対象にアクセサリーや小物・雑貨・民芸品等の店に焦点を当てることで、親族ネットワークという経営資源と雇用自営間の流動性、個人化された「80後」世代の若者たちにも起業できる空間にアプローチすることができた。

内容の詳細は以下の通りである。


◆広告:稲津秀樹・林梅「798芸術区の広告にみる社会的ネットワークとコミュニティ」

◆景観:松村淳「日中建築景観チーム報告書」

◆商業:傲登・荒木康代「家族経営と流動的な雇用自営関係―798芸術地区における商店調査報告」
      山本早苗「文化空間における若者たちの職業選択と起業精神―798芸術区・「80後」世代のショップ経営を事例に」


いずれも、三日間という限られた調査期間のなかで得られたデータにもとづいており、議論はまだ不十分であると言わざるを得ないが、価値観や文化、専門の差異を乗り越えながら行った国際共同調査という観点からみれば、大変貴重な内容になっているだろう。中国民俗学の分野からはまた異なった考察がなされるかもしれないが、社会ネットワークの形成、コミュニティ、再利用文化、アートと政府との関係、労働、家族や生活の関係を考えるにあたってきわめて興味深い示唆をあたえてくれたと思う。


文:林梅 (大学院GPリサーチ・アシスタント)


※より詳しい報告は「北京798芸術区における共同調査報告論集」をご覧ください。

posted on 2011-03-15