研究テーマ・プロジェクト

現在の研究テーマ

「権利の正当性」を決めるのはなにか?

現在の専門は社会心理学。研究テーマは、「いろいろな人々の利害にかかわる決定を行なう権利の正当性」に関する検証です。

「正当性(legitimacy、レジティマシー)」とは、「自己を含む多様なアクターに対する何らかの理由・価値にもとづく、共有財の管理権への承認可能性」と定義されます。つまり、たとえば政策や制度、あるいは集団決定など、みんなの利害を左右する決定を行なう権利を、どんな理由や価値や根拠から、誰に認めるべきと考えるのか、そのココロのはたらきが「正当性」です。

そんなのはリーダーの権利だ、ルールや規則で決められた人の権利だ……そう思うかもしれません。

でも、こんな経験はありませんか。ルール上はたしかに「あの人(たち)」がやることになっている、決定権を持つのは彼らだと決められている。でも、なんであの人(たち)なんだろう、あの人(たち)が決定権を持つことに、どうも納得できない。承服しかねる……。

たとえば選挙というルールに従って選ばれた政治家の方々がいます。政策や制度を決める権利を持つのは彼(彼女)らです。ところが、その人たちが決定権を持つことに、どうも不満を感じたことはないでしょうか。「あの人は能力もないのに」「自分の利益しか考えない人なのに」などと思ってしまったことは、ありませんか。

そう、「権利の正当性」とは、必ずしもルールや規則で定められた根拠だけで成り立つものではない。「あの人(たち)に決定権を認めよう」と人々が納得するためには、ルールや規則による根拠のほか、能力や誠実さへの評価、つまり信頼などによる根拠も必要です。ルールや規則にもとづく正当性の根拠を制度的基盤、能力や誠実さにもとづく正当性の根拠を認知的基盤、といいます。

身近なところから国際関係まで、広く見られる「正当性」

さきほどの、政治家の方々の例を見れば、制度的基盤と認知的基盤が一致しないとき、正当性への評価がゆらぎ、不満や怒りなどを感じる場合もあるとわかります。どうして、不満を感じるのでしょうか。あるいは、制度的基盤と認知的基盤への評価そのものが、人によって違うかもしれない。どのように、違うのでしょうか。そして、人によって正当性への評価が違っていたら、「誰が決定権を持つべきか」をめぐって、人々の間に異なる意見が発生し、これでは「みんなの利害にかかわる決定」ができなくなってしまいます。これでは困ります。

「誰が決めるべきか」にかかわる権利の正当性という概念は、ふだんあまり意識されることはありません。しかし、ちょっと気をつけて眺めてみれば、「誰が決めるべきか」「その人(たち)が決めるのはなぜか」「その人(たち)に決定をまかせていいのか」が問われる場面は、私のまわりにたくさんあります。学校、職場、地域、あるいは国政や国際社会の場面まで、とても広く、多種多様に。

身近なところからマクロな国際関係まで、いろいろな場面で問われる「権利の正当性」について、調査や実験やゲームの手法で検証を進めること。それが、私の研究テーマです。

現在の研究プロジェクト

沖縄県での調査:迷惑施設としての米軍基地

沖縄県に集中する在日米軍基地を、「なかったら多くの人々が困る、しかしそれが置かれた地域の人々はもっと困る」という公共施設、いわゆる迷惑施設の一種と考え、沖縄県市民、地元行政、本土(沖縄県以外)の側の市民、日本政府などのいずれが米軍基地政策の決定権を持つべきか、アクター間の相互評価を調査しています。

内モンゴル自治区での調査:牧草地の管理政策

中国の内モンゴル自治区では、牧草地の砂漠化を防ぐため、牧民に牧畜をやめさせて都市へ移住させる「生態移民政策」が導入されています。牧草地の管理権を持つべきアクターは、牧民・都市住民・行政のいずれでしょうか。現地で調査を進行中です。

ゲーミングによる実験①:「誰がなぜゲーム」による検証

「みんなの利害にかかわる決定」の権利をめぐって多様なアクター間に成立する正当性の相互評価を検証するため、参加体験型のゲーミング「誰がなぜゲーム」を作りました。日常の中で意識されにくい「権利の正当性」について、ゲームを通じて参加者に考えてもらう実験を進めています。

ゲーミングによる実験②:「誰がなぜゲーム」のWEB化

「誰がなぜゲーム」のWEB版を作成中です。高レベル放射性廃棄物の最終処分場である「地層処分場」の是非を決めるのは誰であるべきか、WEB上で全国から参加者を募ってゲームを実施します。原子力発電環境整備機構(NUMO)との共同研究。

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